2025年2月15日〜5月11日 東京都渋谷公園通りギャラリー
リサーチ・制作および検証期間:2024年9月〜2025年11月
テキスト:鹿島萌子(アクセシビリティコーディネーター)
本レポートは、展覧会「今村遼佑×光島貴之 感覚をめぐるリサーチ・プロジェクト〈感覚の点P 〉」における触図つきの会場マップの制作プロセスと、その検証結果をまとめたものである。
本展の開催にあわせ、視覚障害のある人が会場の構造や展示配置を理解できるよう、触覚で読み取れる会場マップを制作した。制作には、本展出展作家である光島貴之氏およびデザイナーの芝野健太氏と協働で進めた。また、掲載する点字データは高内洋子氏(アトリエみつしま)によって作成された。
成果物は以下の2種である。
本会場マップ制作は、本展の開催と並行して展開していた「〈感覚の点P〉展における デザインとアクセシビリティのための印刷実験」(以降、点P展)の一環として位置づけられる。同プロジェクトは、視覚と触覚が融合した立体的な印刷効果を用いた情報保障デザインの試作、および広報物・配布物に適した印刷方法の探求を目的としていた。対象はフライヤー・会場マップ・ハンドアウトを含み、本稿はそのうち会場マップおよび配布用ハンドアウトの制作を対象としている。
本制作が目指したのは、単なる情報保障にとどまらず、「情報伝達とは何か」という根本的な問いを起点とし、記号的な線だけでなく絵的なグラデーションを触覚的に表現することで、情報保障とデザインを両立させることにあった。

写真:アトリエみつしまにて、さまざまな触図・触図つき会場地図を持ち寄り、実際に光島氏に触ってもらった。どういったものがわかりやすいのか/わかりにくいのか、触り心地、凸部と凸部の間隔についてなど議論した。(右から、光島氏、今村氏、芝野氏)

写真:参考に確認した資料(一部)。このほか、触図つき絵本や美術の触察本などさまざまなジャンルの資料を参照した。
近年、多くの美術館・博物館では、障害者差別解消に向かう社会的な動きや合理的配慮の具体化を背景に、視覚障害のある来館者が空間を把握できる「触図案内」の制作・設置が行われている。触図つきの会場マップは、音声ガイドやスタッフによる案内と異なり、「空間を俯瞰する」「自分のペースで確認する」「同行者と共有する」といった特性を持ち、他の情報保障手段を補完する媒体として機能する。
また、駅や公共施設における触図が情報伝達を主目的とした記号的表現であるのに対し、美術館・博物館においては「空間構成をどう伝えるか」「鑑賞体験をどうデザインするか」という観点が加わり、情報保障と鑑賞体験の設計が不可分となる点が特徴と考えられる。
そのため、今回制作した本会場マップの目的と用途を以下のとおりとした。
まず、基本的な目的として、展覧会においてギャラリー会場をどう活用しているのかを示すことにある。詳細な情報は音声ガイドやウェブサイトに委ね、「何かがある」レベルで空間を把握できることを目標とした。会場マップは展覧会全体の情報保障体系の一部として機能するものと位置づけた。
用途の違いに応じて二つの形態を設けた。
会場設置用マップの制作には、東京都渋谷公園通りギャラリー(以降、ギャラリー)が所有する立体イメージプリンター「EasyTactix」を活用した。触図は触察による摩耗や維持が課題となるため、必要に応じて更新・再印刷が可能な点を重視した結果である。この点は、触図を会期中に継続的に運用するうえで重要な条件となった。また、本会場マップの制作においては、点P展という固有の文脈を前提に、単なる施設案内図として制作するのではなく、展示空間の理解や鑑賞体験を支える媒体として機能するものを目指した。
また、会場におくマップとともに、配布用ハンドアウトも制作することにした。この背景には、東京都歴史文化財団およびシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]が筑波技術大学と実施してきた「情報保障支援調査研究プロジェクト」がある。同プロジェクトでは、森敦史氏(盲ろう者)を中心に美術館等における視覚障害のある人の情報保障支援について調査が重ねられ、触図の主なメリットとして以下が挙げられていた。
その他、「触ってわかりやすい触図の基準」(案)として、点や線の大きさ・太さに違いがあること、および点字表記が含まれていることが指摘されていた。
このことを踏まえ、来場前後の活用をも想定した配布用ハンドアウトを準備することにした。事前に触図で空間構造を把握することで来館時の心理的負担を軽減すること、鑑賞後に再度触察することで体験と照合し理解を深めることを期待した。ただし、触図のみで展示内容を完結的に理解させることは目標とせず、音声ガイドやウェブ情報と相補的に機能する構成とした。会場設置用と配布用の二形態を併置することにより、「その場で参照するマップ」と「持ち帰り、時間をかけて触察するマップ」という異なる使用文脈に応答することを意図した。設置用マップでは摩耗や破損への対応を含む運用性を重視し、EasyTactixによる再出力可能な形式を採用したが、配布用ハンドアウトでは情報量を確保することを重視することとした。
今回の制作では、効果的な紙と加工について精査する必要があった。印刷実験プロジェクトでは、①発泡印刷、②UVシルクスクリーン印刷、③デジタルUV印刷、④エンボス加工の4種類の印刷技術が比較検証された。本節はその結果のうち、会場マップ制作に直接関わる選定経緯を抜粋・参照するものである。
4種類の印刷技術を比較検証した結果、①発泡印刷は不透明でイラストを隠してしまう・潰れる・くっつくなどの課題が多く、2回目以降の実験では除外された。②UVシルクスクリーン印刷はシワの問題があるものの点字の読みやすさが評価されフライヤーへの採用がほぼ確定した。③デジタルUV印刷は全体的にべとつきがあり(凹凸の?)差が少なく再現性に劣るが、製版不要であることからシルクスクリーンでの印刷よりもコスト削減が期待できるとして2回目も実験を継続した。
④エンボス加工については、芝野氏は「点の再現性はエンボス一番」「建物境界は太い線、作品は点などで表現できる」と評価し、光島氏も「点の再現性はエンボス一番」「指の滑りやすさがいい」と述べた。一方で「盛り上がりが弱く、厚い紙でないと効果がない」という課題も共有された。以上から「地図はエンボス加工、チラシはUVインクによる印刷」という使い分けの方針が確定し、会場マップへのエンボス加工採用が決まった。


写真:モニタリング会の様子(場所:アトリエみつしま(京都))
第2回モニタリング会では、UVインクによるデジタル印刷とシルクスクリーン印刷の比較とエンボス加工の詳細検証が行われた。エンボス加工について光島氏は「点字は読める。シャープ」「ディテールまで出るのが意外」「わかりやすい。緊張感もでている」「手触り的にはエンボスのほうがいい」と高く評価し、エンボス加工の有効性が改めて確認された。
同会では光島氏から「マップの作り方は、点字を極力減らして、マークを入れる。凡例の点字は浮き出した数字でやったら画期的。数字の形は知っている」「点字が読めなくてもわかるマップがいい」という重要な提案も行われた。


写真:モニタリング会の様子(場所:アトリエみつしま(京都))
印刷技術と用紙の選定が完了した段階で、会場マップの具体的な設計に着手し、以下の通り進めていった。本制作は、筆者を中心に、出展作家である光島貴之氏およびデザイナーの芝野健太氏との協働により進められた。光島氏は触図の触察検証や設計方針に関する提案を担い、芝野氏は図案デザインや印刷データの作成を担当した。
光島氏からの提案をふまえ、まず基本方針として以下を定めた。
基本方針を踏まえ、会場マップに必要な情報や体裁、配布方法などの要件を整理した。これをもとに、会場マップの構成案を作成し、主要となる図の試作を立体コピー機で出力し、光島氏と方向性を確認した。 試作結果を踏まえて試作データを更新し、芝野氏へ共有。芝野氏がそれをもとに図案をデザイン、そのデータをEasyTactixで出力して再度光島氏が確認するという修正のサイクルを繰り返した。 ギャラリーでの展覧会の設営が進むなかで、実際の作品配置や来場者動線を確認しながら、会場内でのマップの設置位置や向きを検討した。触図は、利用者が自身の位置関係や進行方向を理解する際の手がかりとなり、設置場所や設置の向きも重要である。そこで、設置方向に合わせて図面の回転やレイアウトの調整を行った。
【会場設置用】
【配布用】

写真:当初、提案した要件の確認用に作成した触図(立体コピー機で出力)

写真:議論を経て更新した要件をまとめたメモ。体裁、配布方法、目指す方向性の他、マップの構成と、それぞれの要素をどう表現するか、そのパターン案を議論し決定。


図:上記の要件を踏まえて作成したデータ(上:交流スペース、下:会場全体)。当初は、凡例をともに記載する予定でいたが、触認識できる地図の大きさや点字サイズの規定、A4サイズに収めないといけないという制限の中でどう配置するかが議論の中心になった。そのほか、会場施設に敷かれた点字ブロックの位置や、展示室内に設置される作品の位置をどう示すかも、合わせて検討した。
いくつかの図を光島氏へ提案・確認しているなかで、光島氏が試作マップを触察した際、凡例の扱いについて問題提起がなされた。光島氏は視覚障害のある当事者の視点から次のとおり述べた。
「凡例が当事者にはかなりうっとうしい。何度も読み返して記号を覚えながら触図をさわっていく。いくつもあると忘れてしまう。左手で凡例を確認しながら、右手で触図を追いかけることもできないわけではないが、できれば両手を触図に置いておきたい」
この指摘は、触図を読む際の身体的な負担や認知的負荷を示すものであった。一方で光島氏からは、凡例を減らすことだけでなく、「見える人と一緒に触図を読み解く」という別のアプローチも提案された。
「触図をさわることに集中しながら見える人に凡例を聞きながら地図を読み進めるのはどうか。『この三角何?』『受付だよ。』などと応えてもらいながら地図をたどるとずいぶん楽になるかと」
ここでは、上述した「情報保障支援調査研究プロジェクト」でも示された、「誰かと来て、少し補助がある状態で楽しめるものを用意すると効果的」という知見とも通じるものと考えられた。
以上の提案を受け、さらに本制作では、触図を「個人が情報を取得するためのツール」としてのみ捉えるのではなく、同行者やギャラリースタッフとの対話を生む媒介物としての可能性にも着目することとした。空間構造や記号の意味を共有しながら読み解く過程そのものを、鑑賞体験の一部と捉える視点である。
たとえば、各ギャラリーのマップや配布用ハンドアウトでは、あえて墨字では示さない、「触ってわかるマーク」を点在させた。これは、触ることで初めてわかる情報を組み込み、触覚による情報を手がかりに、視覚障害のある人が視覚障害のない人にその存在を教える場面が生まれることを意図したものである。触図を介して、見える人が情報を与えるだけでなく、見えない人が新たな情報を伝える関係が生まれることも期待した。
本展の特徴のひとつに、ギャラリーの複数の展示室にまたがって設置される今村遼佑《プリペアド・トイピアノ》(2025)がある。インスタレーション作品がどのように会場全体に広がっているのかを視覚障害のある来館者に示すことは、触図つき会場マップ制作の制作初期の段階で光島氏から提示された要望のひとつであった。しかし、作品の構造や配置を紙面上で説明しすぎると、展示体験の驚きや発見を損なう、いわば「ネタバレ」になってしまう可能性も想定された。そこで、墨字による視覚情報と凸印刷による触覚情報の関係を調整しながら、必要な空間情報を提示しつつ、体験としての発見の余地を残す構成を検討することとなった。紆余曲折を経て、最終的に紙面に落とし込まれたのが、墨字では示さない「触ってわかるマーク」であった。これは、触図を単なる情報保障の補助装置としてではなく、展示空間を共に探索するためのコミュニケーション媒体へと拡張する試みでもあった。
一方で、本制作では多様なユーザー像への配慮もあわせて検討した。視覚障害といっても、見えない人・見えにくい人、盲ろう者、あるいは他者の助けを借りずに自分だけでマップを読み解きたい人など、利用者の状況や希望はさまざまであり、それを全て網羅的に想像することはできない。光島氏自身もこの点について、「自力で解読できるものが理想。ただ、体調のいいときには少し難解なものに挑戦したくなるし、調子の悪いときにはシンプルなものを求める気持ちになる」と述べ、触図の理想と現実、そして心身の状態による変化についても示唆された。
これらの議論を経て、最終方針として以下を決定した。
以上の議論を踏まえ、本会場マップは、触図の物理的特性と展示空間の特性(構成性・体験性)の両方を考慮して設計した。また、用途の違いに応じて複数の形態を併用する構成とした。


写真:何回目かの修正過程の試作案の1つ。設営の隙間時間を狙い光島氏に確認してもらい、触っているポイントとそこででた指摘をメモで残す。光島氏が別の作業をされている時間で、指摘されたことをどう解消するかを検討した。
この方針に基づき、各マップに掲載する具体的な情報を整理した。最終的な主な方針は以下のとおりである。


写真:最終的な要件で出力した触図(上部2枚:会場設置用、下部2枚:配布用ハンドアウト)。最終確認として、京都の光島氏に送付して確認を依頼。配布用ハンドアウトは、A3で作成することが決定していたため、確認時は2分割したA4サイズで出力した。
また、墨字と触図の組み合わせについて以下の3パターンを設定し、試案を作成して確認を行った。

写真:芝野氏作成の確認データ。墨字と盛り上がりをどのように配置しているかを色別に示している。
制作の細部において、光島氏から以下の具体的な指摘・要望があり、それぞれ対応した。
凡例レイアウトについては、光島氏から「凡例が別シートになったことで地図の情報密度が下がり、整理されてわかりやすい」との評価を得た。
以上をもってデザイン案が確定した。その後、芝野氏によって印刷用データとして整えられた。
完成した会場マップは、展覧会会期中に下記の通り、会場内で設置・配布された。
設置方法については、触図を実際に触察する際の姿勢や利用環境も考慮した。特に設置用マップは、展示室入口や受付付近に水平に配置することで、立ったままではなく両手を安定して置ける姿勢を確保し、落ち着いて触察できる環境づくりを重視した。
当初は制作途中に光島氏以外の視覚障害のある人へのヒアリングを行い、その結果を反映した上で完成版を制作・設置するという流れを想定していた。しかし本制作では、おもに2つの理由から事前のユーザーテストを十分に実施することができなかった。1つに、作品の最終的な展示位置が開幕直前に確定するため、実際の展示状態を反映したマップを事前に用意することが難しかった。もう1つに、制作・調整のスケジュールが開幕直前まで続いたため、テストに充てる時間的余裕が確保できなかった。そのため、開幕前の段階で、会期中および会期後の実環境における検証をもってユーザーテストに代えることとした。対象には、実際に来場した視覚障害のある人に加え、来場しなかった視覚障害のある人も含めた。
視覚障害のある人5名(全盲3名・弱視2名、30〜50代/来場者3名・非来場者2名)によるヒアリングを実施した。検証対象は、触図つきフライヤー、配布用ハンドアウト、会場設置用マップである。以下、配布用ハンドアウトと会場設置用マップに対する主な意見を報告する。
配布用ハンドアウトについては、「線が薄い」「情報過多」「一生懸命触らないとわからない」「利便性と労力に見合わない」といった否定的評価が多かった。細かい点やハッチングなどの微細表現は読み取れないという意見が複数あった。
「凡例がないとわからない」「基本、凡例がない地図は分からない」という指摘が共通していた。加えて、一般的なピクトグラム(例:トイレマーク)を前提とした記号設計については、そもそも触覚での既知性が担保されない場合があり、“誰でも分かるピクトグラム前提”が成立しないことが示唆された。
そのため、単に凡例を別紙で付けるだけでなく、記号自体に意味を埋め込む(例:アイコン内部に点字を入れる)、あるいは「地図単体で触れる最低限の状態(ミニマム)+追加情報として凡例」という構成が望ましい、という提案が挙がった。
一方で、「凡例を読んでも覚えられない」という意見もあり、凡例の量や参照性(見返しやすさ、同一紙面内配置)にも配慮が必要である。
事前に触った場合の期待感については、「行きたい気持ちは特に上がらない」が共通の傾向であった。地図理解には時間がかかるため、来場導線としての効果は限定的であり、事前の期待感を高めるにはQRコード等で作品情報や体験価値(音声ガイド、触れる要素等)を補完する必要がある、という示唆が得られた。
EasyTactix出力の会場設置用マップは、「凹凸が明確」「触りやすい」「情報がシンプル」「気が楽」といった肯定的評価が多く、触知性と情報設計の観点で優位性が確認された。情報量が絞られること自体は「シンプルになる分には良い」と受け止められ、案内として「使えるのではないか」という意見もあった。
ただし「事前には空間イメージをつかめない」は全員共通であり、実際の空間体験と結びついて初めて理解が深まる、という傾向が確認された。地図は来場前のナビゲーションよりも、来場後に「答え合わせ」的に用いることで価値が生まれやすい。
会場で触図を読む行為については、「公共の場ではゆっくり触ることが難しい」「触っていると声をかけられる」「時間を気にしてしまう」「他者を待たせてしまう」といった運用上の制約が挙げられた。触図の性能だけでなく、“触る時間を確保できる環境設計”(設置場所、閲覧スペース、回転率、アテンドスタッフの誘導など)も利用可否を左右する要因である。
触察に望ましい状態として「点字はしっかり高い+指が滑る」が挙げられた。UVシルクスクリーン印刷については、点字の明瞭さを肯定する意見がある一方で、ベタ面の“ペタペタ感”が「指が滑らず扱いにくい」と感じる参加者もいた(個人差あり)。
また、紙の質感(ツルツル/ザラザラ)が極端な場合、凸の認識のし難さや滑りやすさに影響することが示唆された。
エンボスは「薄い」「読み取りにくい」「疲れる」との声があり、触覚で拾えない細部が多いことが課題となった。触知には、微細表現(細線、ハッチング、点描)よりも、太く明確な凹凸の方が読みやすいという傾向が確認された。
大判資料は「持って帰りにくい」「折るのも微妙」といった意見があり、携行性や扱いやすさ(現場での取り回し)も評価に影響した。
以上の検証結果を踏まえ、触図つき会場マップの設計および運用に関して得られた知見を整理すると以下5点にまとめることができる。
先行リサーチでは、事前に会場マップを触ることで空間のイメージを持つことが来館の事前準備となり、体験価値を高めうるという示唆があった。しかし、実際に配布用の会場マップについて利用者にヒアリングを行ったところ、事前配布による来場動機の向上は限定的であった。一方で、「事前配布よりも、来場後の振り返り用として有用」という評価が共通して得られた。「行ってから触るほうが断然面白い」「家に帰ってから答え合わせをした」といった具体的な感想が確認され、空間体験と触図が結びつくことで理解と楽しさが増すことが示唆された。なお、事前配布の効果を高めるには、QRコード等を通じて作品情報や音声ガイドを補完する必要があることもわかった。
「見える人と一緒に見るツールとしては面白い」という意見が複数名から寄せられた。これは、制作過程で光島氏の提案を裏付けるものであり、触図を単独の情報媒体として完結させるだけでなく、対話・共有を誘発する媒介物として設計するという方向性を支持する結果となった。本制作はこの考え方を、先行研究で示唆されていた「補助がある状態での利用」からより積極的な「対話促進ツール」として再定義した点で、新たな知見を提示している。
「凡例は「必要」という認識が強い一方、「覚えられない」「ピクトグラムが前提にならない」という課題も併存している。単に凡例を付けるだけでなく、①記号そのものに意味を埋め込む、②地図単体で理解できるミニマム構造を作る、③読み順・配置を設計する、といった統合的な改善を考える必要があることが見えてきた。先行研究では「点字表記があること」が基準とされていたが、今回において凡例そのものの煩雑さが新たな課題として浮上したといえる。配布用を凡例なしとしたのは、受付設置の触図への誘導と対話促進を意図した設計判断であったが、今回のヒアリング結果を踏まえ、凡例の提示方法(別紙添付・記号への意味の埋め込みなど)については引き続き検討を重ねていく必要がある。
触図は設置されているだけでは十分に機能しない。ギャラリースタッフの案内によって体験した来館者がいる一方、「存在に気づかず体験できなかった」との声も寄せられた。触図の存在をどのように伝え、どのような導線で体験へとつなげるかという運用設計が不可欠である。また、触図の性能だけでなく、触る時間を確保できる環境設計(設置場所・閲覧スペース・アテンドスタッフの誘導など)も利用可否を左右する。アクセシビリティ施策の成果は利用率のみで評価できるものではなく、「利用可能な状態が確保されているか」という観点から捉える必要がある。
会期中および会期後の実環境における検証は、事前テストが困難な状況への代替策として採用したものであったが、実際の使用状況に基づく評価を可能にする点で有効なアプローチであった。また、来場しなかった視覚障害のある人々も検証対象に含めたことで、アクセシビリティを「来館後の体験」に限定しない視点が得られた。触図が来館動機の形成にどの程度寄与しうるか、他の情報提供手段とどのように連動すべきかは、今後の重要な検討課題といえる。