「アンフレームド  創造は無限を羽ばたいてゆく」関連イベント     視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ 開催報告

アール・ブリュット2021特別展 アンフレームド  創造は無限を羽ばたいてゆく

鑑賞作品 2作品目:齋藤勝利《無題》(制作年不明)

参加者A(見える方):
絵を見て感じたのは、海に船か飛行機か潜水艦かなにか機械的な乗り物が入っていくように見えます。あと、見えることでいうと、右のページに「5:00~8:00断水(水が出ない)」ってうっすら書いてあるのが見えるので、それがどういう風に関わっているのかなって思ったところです。
ナビゲーターA(見えない方):
右ページということは・・?
参加者A(見える方):
(作品は)スケッチブック状になっていて、見開き2ページに絵が描いてあるんですが、その右側に、おそらく時間と「断水 水が出ない」という字が書いてあって、消したような跡が見えます。
ナビゲーターB(見える方):
絵と字が全然異なるものが混ざっているんですよね?
参加者A(見える方):
はい。
ナビゲーターB(見える方):
情報としては両方見えるものなんだけど、謎の字が絵に書いてあるという。
ナビゲーターA(見えない方):
今のお話を掘り下げると、海に飛行機か船が入っていくっていうのはどういうことですか
参加者A(見える方):
私には、水陸両用艇みたいな風に見えるんですけれども・・
ナビゲーターA(見えない方):
それ(水陸両用艇)が書いてあるっていうことですか?
参加者A(見える方):
絵で見えるままで言うと、画面の下半分ぐらいに海面のような青い面があって、その下に飛行機のような形が見えます。
そこからは自分の想像で、飛行機が海に乗っているっていうことはあまりないと思うので、水陸両用艇みたいな乗り物なのかなと思いました。

ナビゲーターB(見える方)
Bさんも手挙げられていました?
参加者B(見える方):
私は、少し違う風に見えていました。この作品は、スケッチブックが開いた状態で、一枚の絵で描かれているんですが、色が塗られていない部分と色が塗られている部分がほぼ半分くらいの割合で分かれている絵で、上に色が塗られていなくて、下に海っぽい青い色が塗られているんですけれど、私が見たのは、高速道路に車が走っていて、でその高速道路に海があって、それを見ているのかなと思いました。
自分たちから見て、一番手前の方に走っている車が描かれています。なので、自分の方に向かっているのではなくて、私には右の方に向かって走っているように見えて、その車の向こう側に柵のような物が立っているように見えています。さらに、その奥にまた青い水のようなものが描いてあるので、私はこの道路越しに海が見えている景色なのかなっていう風に見えました。
ナビゲーターA(見えない方):
人によって見え方が違うっていうことは、あまり遠近がはっきりしていないとことなんですか?
参加者A(見える方):
今、Bさんに言われてみると、はっきりそう見えてきました。写実的にそういう風に見えるなという感じがしました。
ナビゲーターB(見える方):
さっきはそういう風に見えなかったっていうことは、そこには曖昧さがあるっていうことですよね。
参加者A(見える方):
そうですね。ちょっと確かに、おっしゃるように遠近とか色のコントラストがあまりないような気がします。
参加者C(聞こえない方):
先ほどの作品(香川定之の作品)は、どちらかというとバナキュラーという感じがします。規則性のない自然な物という感じがしたんですね。今見ている作品の方は、もっとさっきとは少し違って、ルールというか規則性を感じます。
スケッチブックを開いた状態で、絵を描いてあるんですね。絵の下の半分は青なんです。そこが基本になっていて、さっきのBさんがおっしゃっていたんですが、私の見方はちょっと違っていて、手前の色を濃く描いている。それで、真ん中の青は少し薄いので、私は真ん中が少し遠くに見えます。あと、車が2台描いてあるんですけれども、車のデザインが最近の車ではない、古いクラシックな形の車が2台描かれています。
さっきの遠近っていう話がありましたが、私は景色が山のように見えるんです。あと、左側にまるいものが描かれているんですけど、それが2個丸いシールみたいなものが貼ってあるんですね。それが見えています。
ナビゲーターA(見えない方):
はい、ありがとうございます。

参加者D(見える方):
私も、情景は皆さんがおっしゃっていたことと同じような印象を受けたんですが、1つ思ったのが、何時くらいの風景なのかっていうのが不思議だなと思いました。
皆さんがおっしゃられたように、真ん中から下がだいたい2色のグラデーションがあるんですが、初めぱっと見たときは濃い青が目に入ってきて、結構夜の風景なのかな?って思ったんです。でも、真ん中より上が朝もやのような薄いサーモンピンクよりもさらに薄いような色だから白夜のようにも見えました。
だから、夜だけど白夜なのか、朝もやの朝なのか・・上は朝の明るい時間帯のような気がするし、下の方は真夜中みたいな暗い時間帯のような感じがするんです。すごい幻想的なというか不思議な感覚のする絵だなと思いました。
参加者B(見える方):
今の話、すごくそうだなと思いました。
全体的に青色が塗られているところは、暗い感じに見えるんですが、車が少し光っていたりとか、光が入っているように見えて、私はもうすぐ朝になる時間帯の感じかなと思いました。
私には高速道路に見えたので、自分の幼い頃に家族で車でお出かけに行って、夜から泊まって、朝に家へ帰るまでの帰り道のような情景を思い出しました。車の中で、自分は運転しないので、お父さんが運転してて自分は後ろの座席で寝てて、ちょっとまぶしい光が入ったから、目を覚まして見たらこの景色が見えたみたいな、そういう情景を思い出しました。
ナビゲーターA(見えない方):
すごいストーリーですね。まさしく見えないことですよね。

感想 

※一部抜粋

・鑑賞していくにつれ、ひとりひとりの感覚の違いや共通するところが見聞きできて面白かったです。目がいくポイントなど。今回、展覧会にはちょっ と足を運べそうにないのですが、本物を見たい! という気持ちがすごく湧く作品でした。

・一つの作品を、多くの人と率直な意見で鑑賞するという機会は、ありそうなのに意外となく、 それだけでも参加しがいのあるイベントだと思った上に、人によって、それぞれのアートから感じる印象や考え方がこんなに多様である、ということを実感するいい機会でした。

・自由に発言するスタイル、オンラインでの参加に緊張しましたが、地域や障がいの有無、年齢などいろいろな方々と作品を鑑賞する体験はおもしろかったです。

・後半になって、私の表現は全盲の方にどう響いているのかが急に気になってきて質問してしまったのですが「そこは全く気にしなくていい」とはっきり伝えてもらえたことで、 一気に力が抜けて楽になったと同時に私の中に「視聴覚障害の方に教えてあげなければ」という気持ちが隠れていることにも気付いて驚きました。

まとめ

 今回、手話通訳を導入し、様々な見え方に加え、様々な聞こえ方の方々にも参加いただき、ともに鑑賞するプログラムとなった。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、オンライン開催となったため、あらかじめ用意した作品写真を用い、ズームすることで、近寄らなくては見えない作品の細かな表現や色使いなどの鑑賞を導くこととした。鑑賞を通じて、参加者それぞれの幼少期からの記憶や、「色」に対する価値観といったパーソナルな事象も含め、参加者の過去から現在までの経験や参加者の様々な目線で感じたことを互いに共有することが出来た。
 実際に展覧会会場で作品を見る迫力や雰囲気とはどうしても異なる一方で、オンラインで開催するワークショップだからこそ実際の展示室内では見られない近さや、角度からも鑑賞することが可能となった。また、オンライン上で開催したことで、参加者それぞれの画面から得られる情報差が出来にくかったため、各参加者が作品の見える部分だけではなく、見えない部分にも注目し、想像を広げやすくなったのではないかと思う。今回、2作品を鑑賞する中で様々な見え方や感性を共有したワークショップとなったが、1つの作品に向かい合う時間を調整していくことで、より参加者の満足度を高められるように工夫していきたい。
(東京都渋谷公園通りギャラリー 吉田有里)
 

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