基本情報 | 見どころ | 出展作家 |
「アール・ブリュット ゼン&ナウ」は、国内外のアール・ブリュットの動向において、長く活躍を続ける作家と、近年発表の場を広げつつある作家を、さまざまな角度から紹介する展覧会シリーズです。4回目となる今回は、英国の作家を取り上げます。1940年代にフランスで提唱されたことばである「アール・ブリュット」は、1970年代にはイギリスで英語訳され、「アウトサイダー・アート」という呼称が生まれました。
本展では、英国を拠点にアール・ブリュット/アウトサイダー・アート分野のキュレーター・プロデューサーやギャラリストとして活躍するジェニファー・ギルバート氏をゲスト・キュレーターに迎え、「未知なる世界と出会う —英国アール・ブリュット作家の現在(いま)」を開催します。マッジ・ギルやスコッティ・ウィルソンら、長きにわたり知られてきたアーティストから今後の活躍が期待される日本初紹介のアーティストまで、幅広い世代の11名のイギリスのアーティストを紹介する機会です。本展が未知なる世界との出会いの場となれば幸いです。
タイトル | アール・ブリュット ゼン&ナウ Vol.4 未知なる世界と出会う —英国アール・ブリュット作家の現在(いま) |
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会場 | 東京都渋谷公園通りギャラリー 展示室 1・2、交流スペース |
会期 | 2025年6月21日(土)– 8月31日(日) |
休館日 | 月曜日 (7月21日、8月11日は開館)、7月22日、8月12日 |
入場料 | 無料 |
ゲスト・キュレーター | ジェニファー・ギルバート(ジェニファー・ローレン・ギャラリー) |
出展作家 | マッジ・ギル、アンドリュー・ジョンストン、ナイジェル・キングスベリー、カーラ・マクウィリアム、ターザ・マイルハム、キャメロン・モーガン、ジェシー・ジェームズ・ネーゲル、ヴァレリー・ポッター、キャシー・ウォード、テレンス・ワイルド、スコッティ・ウィルソン(アルファベット順) |
グラフィック・デザイン | AD 三木俊一 デザイン 廣田萌(文京図案室) |
協力 | ジェニファー・ローレン・ギャラリー |
後援 | ブリティッシュ・カウンシル |
主催 | 東京都渋谷公園通りギャラリー(公財財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館) |
マッジ・ギルをはじめとした英国アール・ブリュット分野のレジェンド作家陣のほか、日本初紹介となる新進気鋭の作家の作品も多数来日。英国人キュレーターが注目する幅広い世代の作品を紹介することで、英国アール・ブリュットの現在地を映しだします。絵画に立体作品、素材や手法も様々な11名の作家それぞれの、緻密で繊細かつエネルギッシュな表現は見ごたえがあり、独自の作品世界にひきこまれます。
出展作品を白黒の作品とカラフルな作品で分け、2つの展示室で紹介。白黒の作品が並ぶクラシカルな雰囲気の部屋では女性がモチーフの作品のほか、優美で有機的な形や線が印象的な作品が展示されます。一方で、カラフルでポップな印象を受ける部屋では、不思議な生き物や、どこか懐かしいカメラなど、多彩なモチーフの作品が並びます。印象の異なるそれぞれの展示室で、想像力をかきたてる作品をお楽しみいただけます。
■ジェニファー・ギルバートによるオープニングトーク(日英通訳、手話通訳付き)
日時:6月21日(土)15:00-16:30 英国でのアール・ブリュット分野の状況や作家支援活動について、ギルバート氏が話します。
■ジェニファー・ギルバートによるギャラリーツアー(日英通訳、手話通訳付き)
日時:6月22日(日)14:00-15:00
■英国のアール・ブリュットを知る動画や資料の展示
交流スペースでは、作家本人が語るインタビュー動画や、作家が活動する英国のアート・スタジオなどをご紹介します。
イギリスを拠点にギャラリスト、フリーランスのプロデューサー、キュレーターとして活動。2008年より、障害のある作家、神経多様性(ニューロダイバーシティ)の作家、独学の作家と国際的に協働してきた。2017年には「ジェニファー・ローレン・ギャラリー」を設立。見落とされがちなアーティストたちの作品を紹介し、彼らの活動を支援することを目的とし、世界各地の美術館やギャラリーで展覧会の開催や、アートフェアへの参加を行う。また、障害のある作家に対して、専門キャリアの支援やメンタリングを行うほか、美術館等でのアクセシビリティやインクルージョンに関するコンサルタント活動も行っている。
マッジ・ギル《Untitled》1945年頃
Madge Gill, Untitled, c.1945, Collection of Adam Whitaker, Photo by Laura Hutchinson
英国で最も有名な女性アウトサイダー・アーティストとして知られる。複雑な模様の背景の中に浮かぶ、神秘的な女性の顔を描いた特徴的なインク画は、1920年代に、創造したいという本能的な衝動に駆られて始まったものである。自分が「ミルニネレスト」という名の精霊に導かれていると信じていたことから、ギルは、精霊の力によって自動的に生み出されたという芸術作品を数多く残している。制作にあたっては、大きなキャラコ(平織り木綿布)から、ポストカードや厚紙まで、さまざまな媒体が使用された。
アンドリュー・ジョンストン《Untitled(Orangutan)》2020年
Andrew Johnstone, Untitled(Orangutan), 2020, Courtesy the artist and
Venture Arts, Photo by Laura Hutchinson
ジョンストンの絵を描くことに対する情熱は、幼い頃から家族によって育まれてきた。また絵を描くことは、家族とコミュニケーションをとる手段としても非常に重要な役割を果たしていた。例えば、これからどこに行って、誰と会うのかということを、絵で説明することができた。ジョンストンは、ドローイングや陶芸などの緻密な作品を明確な意図をもって制作している。実際に見たものや、インターネット上で目にしたものを中心として、動物や何かの出来事について作品にすることが多い。
ナイジェル・キングスベリー《Untitled》
制作年不詳
Nigel Kingsbury, Untitled, n.d., Courtesy of ActionSpace, Photo by Laura Hutchinson
女性の姿かたちに魅了され、独自のマークメイキングのスタイルを用いて、魅惑的で豪華なイブニングドレスや、退廃的な衣装や、浮遊感のあるドレスに身を包んだ神秘的な女神としての女性を、優美にして繊細に描き出している。最初に描かれるときにはヌードであることが多く、その後、細かなスケッチ線を何層にも重ねて布のひだを付け加えていく。キングスベリーの作品は、自分にインスピレーションを与えた女性たちに捧げられている。
カーラ・マクウィリアム《Fragmented Whispers of Instability》2025年
Cara Macwilliam, Fragmented Whispers of Instability, 2025, Courtesy the artist and Jennifer Lauren Gallery, Photo by Laura Hutchinson
エネルギーに魅了された、さまざまな表現分野で活躍するアーティストである。そのエネルギーとは、物理的なもの、感情的なものから始まって、形而上学的なものまで幅広い。マクウィリアムの作品は、刹那的な存在、エネルギー、異世界の痕跡を捉えている。使用されている素材によって、さまざまなスタイルが生み出され、その一つ一つが、独特の声と流れを持っている。何層にも重なる複雑な作品が多く、そこには常に直感と目に見えない力とが働いている。また、オートマティズムのプロセスを好んでいる。
ターザ・マイルハム《When Women and Fish Took Over the World》2022年
Tirzah Mileham, When Women and Fish Took Over the World, 2022, Courtesy the artist and submit to Love Studios
20年前からSubmit to Love Studiosに所属するアーティストとして、週に何時間も費やして、芸術への情熱を探求している。マイルハムの一連の作品には、その技術の奔流と色の飛沫とが見られるが、最近は単色のドローイングで紙面を隅々まで埋め尽くすことによって、想像力を駆け巡らせている。
キャメロン・モーガン《Say Cheese》2024年
Cameron Morgan, Say Cheese, 2024, Courtesy the artist and Project Ability, Photo by Jack Wrigley
1991年からグラスゴーのプロジェクト・アビリティ・スタジオで活動する、多才にして多作なアーティストだ。絵画、陶芸、刺繍などさまざまな分野で、明るく「ポップな」色使いの作品を制作している。モーガンの作品ではドローイング、特に線が重要だ。モーガンは、はっきり見える部分は省略し、見過ごされがちな部分を強調する。そうすることで、主題の本質に到達することができるのである。今回の展示では、モーガンの、カメラに注ぐ愛情に焦点を当てている。
ジェシー・ジェームズ・ネーゲル《Every Gay Boy Detests Fanny》2023年
Jesse James Nagel, Every Gay Boy Detests Fanny, 2023, Courtesy the artist and Jennifer Lauren Gallery, Photo by Laura Hutchinson
ロンドンを拠点に活動するネーゲルは、創作活動に爽快さを感じている。そして、「リラックスできるチェスとは違って、アクション満載な感覚がある。何が起こるかわからない」と言う。ネーゲルは、無計画な数枚の鉛筆スケッチから制作を始め、それから潜在意識に導かれるように、最終結果がわかっていては「つまらない」と思いながら、自分の手が作品を生み出していくのを感じるのである。細部を描き込み、色を足していきながら制作を進め、それに合わせてタイトルも進化していく。
ヴァレリー・ポッター《Untitled》2020年
Valerie Potter, Untitled, 2020, Courtesy the artist and Jennifer Lauren Gallery, Photo by Ellie WalmsleyLaura Hutchinson
マーゲイトを拠点に活動するポッターは、常に創造性を発揮してきたのにもかかわらず、自分を芸術家だとは思っていなかった。19歳の時に英国の美術学校に入学したものの、制約が多いと感じて退学し、自宅で絵を描き続けた。そのクロスステッチの作品では、顔、動物や植物、愛と、非宗教的な神々とが結び合わされていることが多い。抽象的なアイデア(たとえば、火星に咲く花のような)が頭に浮かぶと、それを鉛筆で描き、思いもよらない、明るい色で、時間をかけてクロスステッチ作品にする。
キャシー・ウォード《Unite》2017-19年
Cathy Ward, Unite, 2017-19, Courtesy the artist
幼少期、アイルランドの慈善修道女会が運営する私立修道院に送られた。この経験はウォードとその作品に、長く続く、深い影響を与えた。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)を卒業した後、カナダで精神面でも、創造性の面でも人生が一変するような経験をし、それからロンドンに戻った。毛髪、地層、エネルギーのパルスと解釈される、極めて優美でありながら、強烈なドローイングで知られている。
テレンス・ワイルド《Orientation》2025年
Terence Wilde, Orientation, 2025, Courtesy the artist and Jennifer Lauren Gallery, Photo by Laura Hutchinson
ロンドンを拠点に活動するアーティスト兼教育者のワイルドは、テキスタイルで学位を取得したが、クロイドンのボランタリーセクターが提供する精神保健サービスを通じて改めて教育を受けた。ワイルドのどのモノクロ作品の中にも、ゲイであり、成人サバイバーという視点から、自らのメンタルヘルスの遍歴が描かれている。主に線描や陶芸を用いた作品には、人生のさまざまな時期に対する反応としての、苦闘や、恐怖や、夢が表現されている。
スコッティ・ウィルソン
《Masquerade》1935年
Scottie Wilson, Masquerade, 1935, Collection of Adam Whitaker, Photo by Laura Hutchinson
ロバート・“スコッティ”・ウィルソンは、1931年にグラスゴーからトロントに移り住んだ。1930年代に絵を描き始め、白鳥、鳥、魚、木、花など、夢の中にいるような生き物を、インクを用いて、非常に激しいスタイルで描くようになった。1945年初頭にロンドンに戻ってからもこのスタイルでの創作を続けていたが、まもなく、ロンドンのシュルレアリストたちから注目されるようになる。ウィルソンは、植物の形、鳥や動物、ピエロ(自画像)、「強欲者」や「悪魔」(悪意の擬人化)といった、比較的限られた範囲の視覚的要素に依拠している。
作家紹介テキスト:ジェニファー・ギルバート
ゲスト・キュレーターによるオープニングトークやギャラリーツアー(同時通訳、手話通訳付き)など、会期中のイベントを予定しています。
詳しい情報はこのウェブサイトで随時お知らせします。