山羊は手紙を待ちながら、待たれながら。

「とどく」田中義樹

「手紙がきた(三通目を出そうとしているとこ)」

4月末のこと。
待っていたら、手紙がきた。これと同時にアマゾンで別役実の「やってきたゴドー注1」という戯曲の本を注文していたのですが、これもきた。
もう手紙なんてこないかもと思っていたから、少しビビってます。成果展で手紙がこない事実をおもしろおかしく綴る「ゴドーを待ちながら」上演プランを固めてすらいたので。
でも、とにかくよかった、うれしいなあと思いつつ、手紙の引き取り先のArt Center Ongoingで手紙を受け取りました。Ongoingはオーナーの小川さんの都合で1年間閉まっているのだけど、その間作家の和田さんという方が、その1階で餃子屋をオープンする目論みだそうで、壁がピンクに塗られ、餃子屋に大改装されていました。すっごい落ち着かないピンク色でいやでした。
来る時にたまたまnever young beachというバンドの「あまり行かない喫茶店で注2」という曲をイヤホンで聴いていたんです。好きな女の子との家を買って住む未来を想像する彼らは<なんてことない絵を飾って、なんてことないレコードをかけて、部屋にはピンクのペンキを塗って、庭には犬を走らせよう>と歌っている。入った餃子屋Ongoingは変なピンクのペンキを壁に塗られてるし、変な絵が掛かってるし、おそらく開店したら変なレコードはかかってるだろうな、あとは汚い犬が走ってたら完璧だなと勝手に類似点を見つけて面白くなってしまった。

手紙の内容は秘密だけど、なんてことないやりとりです。今回、返事をくださったのはやりとりを始めた二人のうちの一人の今はもう施設を出られて、働かれている方です。
最初に送った手紙に、好きなことはなんですか?と書いたので、返ってきた手紙の中でお勧めされた音楽を聴いています。やはり、最初の探りさぐりのやりとりは「ご趣味は?」とかから始まるのですね。最近の流行の曲や、ボカロ曲、色々と書いてありました。昔、自分はCD屋で働いていたのにもかかわらず、初めて聴く曲ばかりでした。聴いてみて思ったのだけど、高校生の時からポップスは好きで、色々聴いてきていたつもりだったけど、ボカロを本当に通ってきていなかったことに気がつきました。高校生の時はUKロック至上主義者みたいな人間だったので、あんまり興味を持ててなかったのです。ずっとリバティーンズとか聴いてました。

今をときめく米津玄師とか、ずっと真夜中でいいのに。とか、YOASOBIの人もボカロP出身なので、やはりここには日本の音楽の才能の原石が眠っているんだろうと思います。ボカロってどうやって使うんだろうという興味も出てきた。自分も原石になりたい。
、、、そういや、中学生くらいの時に初音ミクを知ったな。ニコニコ動画でsupercellのryoが作った「メルト」が超流行っていたなあ。高校に入るあたりに、ハチの「マトリョシカ」が出たんだっけ、、、?まさかハチが米津玄師になって、日本のマイケルジャクソンとか言われたりするとか誰も思わなかったよね。なんて暇な時に友達と入った喫茶店でするようなことを書いてみたりする。返事の手紙にもそんなことを書く。このブログもよく行く喫茶店で書いています。

他にも、詩を作るのが好きだと聞きました。
自分はポップスとかの歌詞以外の詩ってあんまり読んでこなかったなと思ったり。生まれて初めて詩でかっこいいと思ったのは、高校生の時に教科書で読んだ寺山修司の<マッチ擦るつかのま海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや注3という歌。
浮かぶ情景がかっこいい。トレンチコート着てる寺山の絵が浮かぶ。ハードボイルド短歌。当時、好きだった「毛皮のマリーズ」というバンドの由来の劇の「毛皮のマリー注4」を書いたのが寺山だって知った矢先だったから、好きになれたのかもしれません。
ちなみに一緒に現代詩として教科書で紹介されていた俵万智は、詩集を図書館で借りて読みはしたんだけど、ウェイ系な感じが当時の自分は微妙に受け付けなかった気がする。(当時はそう思っただけです。暗い子だったので。)

そういやタバコが吸える喫茶店って本当になくなったなあと思います。自分はタバコをしょっちゅう吸っていないと嫌な人ではないのですが。
ファミリーレストランとかが全面禁煙になっているのは特になんとも思わないのだけど、今まで喫煙可だった年季の入った雰囲気の喫茶店もそうなってるのを見ると変わったなーと思います。寺山が<身捨つるほどの祖国はありや>、なんて言ってた時は飛行機でもタバコ吸えたなんて聞きますものね。

あと今年も、アトリエの庭にバラが咲き出しました。
トゲがめちゃくちゃ硬くて鋭利なので刺さると血とか出ます。

【文・画像提供:田中義樹 2021年5月3日】


注1 別役実(1937年-2020年)日本の劇作家。『やってきたゴドー』2007年初演
注2 never young beach 4人組のバンド「あまり行かない喫茶店で」2015年(作詞・作曲:安部勇磨)
注3 寺山修司 第一歌集空には本的場書房、1958年
注4 寺山修司『毛皮のマリー』1967年初演

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